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Real Fantasy物語 ~勇者ジェミニの伝説 外伝~ -君衣の伝説- NEW!

 2025-10-18

 

元になるお話はこちらから

勇者ジェミニの伝説

勇者ジェミニの伝説 クリスタル探索冒険記 -アレーシャの森編ー

 

※この物語はハンドメイド作家の君衣様のお名前をお借りして制作しております

 

 

「大丈夫よ、カイネス。……わたしのこの命にかえて……今度は私があなたを守るから。」

 

 

アレーシャの森から北東。

そこには、数キロメートルにわたって数百年も霧に覆われた地域があります。

 

そこはキミゴロモ地方と呼ばれており、霧と静寂と紫色の花が延々と続いている場所です。そして迷い込んだ人は幻覚や幻聴に襲われると言われています。

 

「女の人の声が聞こえてきたけど、なんだったんだろう?」

キミゴロモ地方を抜け、光のジェミニは目を潤ませて言いました。

 

「霧の魔女の伝説が残る場所だ。それも不思議じゃないだろうな。」

闇のジェミニは淡々と答えます。

 

「決して邪悪じゃないけど、すごく、すごく悲しくて切な気な声だったね…僕ちょっと泣きそうになっちゃったよ。」

 

その頃アレーシャの森では、孤独の魔女がひとり呟きます。

「あいつらはそろそろキミゴロモ地方を抜ける頃か。キミゴロモ…もう300年以上経つのか。リセリア…お前の心はまだ晴れないのかい?」

 

 

2人のジェミニが魔王討伐の旅に出るおよそ300年前。魔法王国セインティティア近隣のとある村は、魔物に襲われていました。

 

「魔物だ!!!逃げろ!!!」

「ダメだ、村にはまだ長老が残ってるんだぞ!!」

「しかし……」

「俺たちの村を守ろう!戦うんだ!」

 

慌てる村人のわきを魔物に向かって駆け抜ける若い兵士がいました。

 

「皆さんは早く逃げてください!ここは僕がなんとかします!」

 

彼の名前はカイネス。

エルボス帝国の兵士であり、休暇中の旅の途中に偶然その村を訪れていました。

 

「お、おい、お前!死んじまうぞ!」

「俺たちも手伝おう!」

 

魔物の襲撃により村は大きな被害を被りましたが、カイネスの活躍により村人たちは死者を出すことなく、魔物をどうにか退けました。

 

しかし、カイネスは魔物との戦いにより瀕死の重傷を負っていました。

 

「おい、はやくこっちだ!!あの兵士が死んじまう!」

「俺たちの恩人を助けるんだ!」

 

 

「………あれ…ここは……?」

 

カイネスが目を覚ますと、自分が部屋で寝かされていることに気がつきました。

 

「ああ…よかった!目が覚めたのですね!」

 

淡いブルーの瞳をした穏やかな笑顔の女性が慌てて駆け寄ってきました。

 

カイネスは何が起きたのかも分からず呆然としたまま、天井を見つめていました。

「あなたが、この村を魔物たちから助けてくださったのですよ?覚えていますか?」

女性はそう言うと忙しなく何か準備を始めました。

 

シルバーの髪に紫の髪飾りがよく映えるその後ろ姿を眺めながら、カイネスはほどけそうな意識を繋ぎ止めながら、ぼんやりと記憶をたどりました。

 

「そうだ……僕は休暇でこの村を訪れていたんだ。そしたら急に魔物に村が襲われ始めて……戦ったんだっけ。」

 

魔物から必死に村を救おうとしたカイネスはひとり重傷を負い、生死の境を3日彷徨った後、なんとか一命をとりとめたのでした。

 

しばらくして女性が戻ってくると、カイネスが横たわる傍らのテーブルに陶器の器を置きました。

 

「さあこの薬草をゆっくり飲んでください。まだ熱いので、少し冷ましてからのほうがいいかもしれません。起き上がれますか?」

「あ……ありがとうございます……。そうだ!村の人たちは!?皆さんは、無事ですか!??」

 

そう必死な顔で尋ねるカイネスに女性は優しい笑顔で答えました。

 

「はい、あなたのおかげで、みんな無事でした。本当にありがとうございます。どうか、ゆっくり心ゆくまで体を休めていってください。」

「ああ……良かった……。」

体を起こしかけたカイネスは安堵の表情を浮かべ再びベッドに横になり、また眠りについてしまいました。

 

 

再び目を覚ますと、幾人もの人がその家を訪れていました。

「おお、我らが英雄、お目覚めですかな?私はこの村の村長です。この度は、本当に村を救っていただきありがとうございました。どうか、傷が癒えるまで村にとどまっていってください。村の者全員であなたの回復に全力を尽くします。」

 

「まずは動けるようになるまではしばらくこちらでお休みください。微力ではありますが癒やしの魔法で少しは早く回復すると思います。」

淡いブルーの瞳の女性は再び優しい顔をカイネスに向けました。

 

「ありがとう。たくさんお世話になってしまい申し訳ない。あなたは……」

「私はリセリア。この村の魔道士です。」

 

それから村人たちは、村を救った英雄の回復を待つと、村人全員で盛大にもてなしました。

しばらくして動けるようになったカイネスはそのお礼にと、その村に留まり村の仕事を手伝うことにしました。

 

「カイネス、ここはもう大丈夫だよ、ありがとう。君はもう休みなさい。いつもありがとうなあ。」

「パームさんこそもう休んでください。あとは僕がやっておきますから。僕はもう傷もすっかり治ってこの通りです!」

カイネスは満面な笑みを浮かべ答えました。

 

「ああ、君が手伝ってくれるから村の仕事がはかどるよ。この村は年寄りが多いから、本当に助かってる。君みたいな若者がこの村に住んでくれればいいんだけどなあ。」

「ははは、そんな風に言ってもらえて嬉しいです。この村の方は皆さん優しい人たちばかりだし、村の雰囲気も穏やかで落ち着きます。いつもは兵士として剣を振るっていますが、こうやって剣をクワに持ち替えて働くほうが、もしかすると僕にはあってるのかもしれません。」

 

カイネスはのどかな村の暮らしをすっかり気に入っていました。

しかし、この村にきてもう半年が経つカイネスは自分が所属する隊のことが気にかかっていました。

 

「ただいま、リセリア。」

「お帰りなさい、カイネス。今日もお疲れさま。今年の野菜は豊作みたいね。あなたのお陰かしら。」

「そうだといいな!本当に美味しそうに育っててね、どんな料理が合うのか考えながら収穫してたよ。」

そう嬉しそうに話すカイネスを眺めながらリセリアは優しく言葉を返します。

「あなたは本当に兵士じゃないみたいね。ずっと昔からこの村で畑に勤しんでいるかのよう。それになんだか前よりとてもイキイキして見えるわ。」

「ああ、自分でもそう思うよ。きっとこういう生活のほうが僕には合ってるんだと思う。……でもね……」

 

カイネスは真剣な表情をし、まっすぐリセリアの顔を見て言いました。

 

「……リセリア、聞いて欲しいんだ。この村に来てもう半年が経つ。さすがにそろそろエルボス帝国に…戻ろうと思うんだ。」

「え……」

 

リセリアの瞳が大きく揺らぎました。

 

「エルボスには手紙を出してあるから、僕がここで傷を癒してることは伝わってると思う。でもきっと、隊長たちも、皆も心配してると思うんだ。それにそろそろ戻らないとクビになっちゃうかもしれないしね。」

カイネスは、わざとらしく明るい笑みを浮かべて言いました。

 

「そう、よね……。あなたには、あなたの本来の暮らしがあるもの。いつまでも引き留めておくわけにはいかないわよね。」

うつむきながらリセリアは答えました。

 

翌日、カイネスは村人たちにエルボス帝国に戻る話をして回りました。村人たちは皆そろって残念そうな様子でしたが、仕方のないことだと笑ってカイネスを応援してくれました。

 

そしてエルボス帝国に戻る日の前日、村の高台で星空の下、カイネスとリセリアは話をしていました。

 

「いよいよ明日帰ってしまうのね、カイネス。あなたはエルボス帝国へと戻ったら、戦地に行く日々が続くのよね?兵士だものね……。」

「ああ、……そうだね。」

 

「ずっと、……ずっと、エルボス帝国で兵士を続けるつもりなの?」

「…………分からない。分からない、けど、僕は故郷や家族を守れる強さが欲しくて、兵士になったんだ。でもエルボスは他国と戦争も辞さない国だから、自分の国を守るために、誰かの家族を奪わなきゃいけないこともある。そこにはずっと戸惑いを感じているんだ。」

「だったら……だったらこの村で暮らせばいいじゃない!みんなあなたのことを気に入ってるわ。頼りにもしてるし。それに……」

リセリアは途中まで言いかけた言葉を飲み込みました。

 

「ははっ、そう言ってもらえて本当にありがたいよ。僕もこの村が大好きだよ。リセリア、君にも本当に世話になったね。君は僕の命の恩人でもあるから。」

「…………」

 

「リセリア……」

「……必ずまた会いに来るよ。」

 

カイネスは真っ直ぐにリセリアの目を見て言いました。

 

「……うん。……待ってるわ。」

リセリアはカイネスを見て微笑みながら返しました。

 

「カイネス、これを持っていって。」

リセリアは首からかけていたネックレスを外し、まっすぐな瞳を向けてカイネスに渡しました。

 

「……これは?」

「これは、お守りよ。何日もかけて私の魔力を込めたから、危険からきっとあなたを守ってくれるはず。」

「ありがとう。とても心強いし、君を近くに感じられる気がするよ。」

カイネスは渡されたそのネックレスを早速首にかけて笑顔で言いました。

 

「カイネス……」

リセリアは瞳を潤ませながらふわりと微笑みました。

 

2人はしばらくの間、満天の星空が輝く音に包まれて過ごしました。

それはまるで世界から切り離されたかのような、この世で最も美しく純粋で、そして悲しく切ない時間でした。

 

 

夜が明けるとカイネスは村を出ていきました。

 

多くの村人に見送られ、カイネスは次第に小さくなっていく背中を何度も翻しながら、ゆっくりと村人たちの視界から消えていきました。

 

「本当によかったのかい、リセリア?カイネスについていきたかったんだろ?」

「……ううん。いいの、村長。私は長命の魔女だもの。もし……もしもカイネスとずっと一緒にいられたとしても、人よりもずっと長く、若く生きていられる私なんかが傍にいたら、カイネスはきっと自分が先に老いていくことに苦しむわ。あの人は私を残していくこともきっと悲しむはずよ。とても優しいから。もちろん私だって、いつかは離れ離れになってしまうのは辛いもの。」

リセリアは目に涙を浮かべながらそう言うと、足早に家に戻っていきました。

 

 

それからエルボス帝国に戻ったカイネスは再び兵士としての任務にあたっていました。

真面目で努力家のカイネスの活躍は相変わらず目覚ましく、着実に軍の信頼を積み重ねていきました。

 

若く優秀なカイネスには、縁談もたくさんありました。

中でもある貴族の娘との結婚の話は実現に向けて話が進みそうな気配があり、カイネスも断りきれずに困り果てていました。

結婚の話が出るたびにカイネスはリセリアのことが頭をよぎっていたのです。

 

そんな溜息交じりの日々が続く中、カイネスがエルボス帝国に戻って3年が経とうとしたころ、国からとある命令がくだりました。

 

「セインティティア王国周辺の村や町を侵略する!」

 

エルボス帝国はセインティティア王国を侵略する足がかりとして、その周辺の町や村の植民地化を進めようとしていたのです。

その侵略部隊の中隊の一員にカイネスは選抜されたのでした。

 

「そんな……あの村を……!」

 

カイネスは愕然としました。

しかし、軍の決定事項に一兵士であるカイネスにはどうすることもできません。

 

村の人達にどんな顔をして向き合えばいいのか、リセリアにも合わせる顔がない。軍と村の間で板挟みになる気持ちに整理ができないまま、カイネスと侵略部隊は出発をしました。

 

部隊はまず始めにセインティティア近郊の町を武力制圧しました。

「大して抵抗する力もなく、制圧するのは造作もなかったな。よし、この近くにある村も、ついでに制圧してしまおう。」

 

隊長の命令により、エルボス帝国の中隊は翌日その村を訪れました。

カイネスが3年ぶりに訪れたその村は記憶のままの姿で、懐かしさと辛さが同時に押し寄せてきました。

 

村に着くや否やエルボス帝国の兵士達は次々と村の中に入っていきました。

異常な気配に気づいた村の人達が家の外に出てきましたが、その人々を兵士たちは次々に捕らえていきます。

 

「何をする!!!なんだ貴様らは!!」

「おとなしくしろ!これよりこの村はエルボス帝国の領地とする。歯向かうものは全員命はないと思え。」

 

カイネスはその様子に居ても立っても居られず、隊長に説得を試みます。

 

「隊長!このような小さな村など、侵略するに値しません。ここにはほとんど年寄りしかおりませんので、軍にとって有益なことは何もないでしょう。」

「それなら、我々の補給地点としてちょうどいいではないか。どうやら畑などもあり食料の調達はできると見える。」

「であれば、武力制圧ではなく、話し合いにより和平的に進めたほうがよろしいのではないでしょうか?」

「そんなまどろっこしいことをするのは時間の無駄だ。我々にはこのあと、セインティティアとの全面戦争も控えておるのだぞ。カイネス、貴様もさっさと行け!」

 

「カイネス!!」

聞き覚えのある声に振り向くとそこには、兵士に捕らえられたリセリアが悲しげな顔をしてこちらを向いていました。

 

「リセリア!!!」

 

「なんだカイネス貴様、この村の者たちと繋がっておったのか。なるほど、そういうことか。貴様、まさか我軍に歯向かうわけではなかろうな?」

「……………」

 

「………隊長…どうかこの村の侵略を止めていただけませんでしょうか?この村は傷ついた私を救ってくれた命の恩人たちの村です。お願いします、どうかこの村だけは見逃してくれませんか?」

「それは無理な話だ、カイネス。貴様の恩人かどうかなどどうでもよい話だ。くだらないことを言っていないでさっさと村人達を捕らえてこい。歯向かうやつがいたら殺しても構わん。」

「…………分かりました、隊長。」

 

カイネスはうつむきながらそう答えると、隊長の顔を真っ直ぐに見てこう続けました。

 

「それではこのカイネスは、只今を持って、エルボス帝国軍を除隊させていただきます!これまでお世話になりました!」

カイネスはそう言うと、隊長に深々と頭を下げました。そして、リセリアの元へと駆け寄りました。

 

「その汚い手を彼女から離せ!!」

そう叫ぶとリセリアを捕らえていた兵士を突き飛ばし、腕を締め付けていた縄を切り解放しました。

 

「正気かカイネス……!貴様、そんなことをしてタダで済むとは思うなよ!!」

隊長は信じられないという様子で怒りの声を上げました。

 

「カイネス、なんてことを。こんなことをしてはあなたは……」

そう言うリセリアの言葉を遮るように、カイネスはリセリアを抱きしめました。

 

「こんな再会になってしまってすまない、リセリア。この村の皆を決して傷つけさせはしないから、君も隠れているんだ!」

「駄目よ、そんなことをしたらあなたは殺されてしまうわ。」

「大丈夫だ。僕はこんな卑劣なやつらには負けない!!僕は今この瞬間、この村を護る騎士になったんだ!必ずこの村を、君を守ってみせる!!」

「カイネス…」

 

カイネスは涙を流すリセリアの額に口づけをすると、隊長に向かい剣を構えました。

 

しかしそんな時、村の反対側で大きな悲鳴がいくつも聞こえました。

 

「助けてくれー!!!」

「ぐわぁ!!!」

 

その叫び声はエルボス兵のものでした。

カイネスと、その場にいた人たちは皆声の方を振り返りました。

しばらくすると、その声の中に村人の声が混ざるようになりました。

 

「なんだ!?何が起こっているというのだ!」

 

隊長は慌ててその声の方に向かっていきました。

 

「ま、ま、ま、魔物の軍勢だ!!!」

 

なんとそこには大量の魔物たちが押し寄せてきており、エルボス兵も村人も関係なく襲いかかっていました。

「なんてことだ!」

「キャー!!!!」

悲鳴を上げるリセリアをカイネスは支えると物陰にリセリアを隠し、魔物に向かっていきました。

エルボス兵も村人も、全員が魔物と戦いますが、魔物の強さと数の多さに次々と倒れていきます。

 

「くっ…ダメだ、数が多すぎる……!」

カイネスも魔物の勢いに押され次第に傷が増えていきます。

 

「クソ、クソ……!どうしてこんなことに……!」

 

目の前で次々と倒れる兵士や村人達を視界に捉えながら戦うカイネスにも絶望の波が押し寄せてきました。

 

「カイネス!!!こっちよ!!!」

 

その声と同時にカイネスの周辺に濃い霧が立ち込めました。

そして、カイネスは手を強く引かれ村の外に勢いよく連れ出されました。

 

「カイネスあなたを死なせるわけにはいかないわ!」

「リセリア!!」

「逃げましょう!!とにかく遠くに!!走って!!」

 

リセリアの必死の声に引っ張られ、2人はどこへとも分からず走り始めました。

 

しばらく走り続けた2人でしたが、運の悪いことに、村を襲った魔物とはまた別の魔物の軍勢と遭遇してしまいました。

 

「マズい……見つかった!!」

「うそ……」

 

絶望した顔をする2人に魔物が襲いかかってきます。

襲いかかる魔物を剣で食い止めながらカイネスはリセリアに向かって叫びます。

 

「リセリア、ここは僕が食い止めるから、君は早く逃げるんだ。さっきの霧の魔法を使えば君だけでも逃げ出せるはずだ!僕は大丈夫だ!!必ず生きて、君の後を追うから、早く逃げてくれ!!」

 

魔物たちの猛攻に押し切られそうになりながらも、必死にリセリアに訴えかけます。

「何をしてるんだ、はやく逃げるんだ!!」

 

呆然としたままその場にへたり込んでいたリセリアはゆっくり立ち上がると、何かを決意した表情で魔力を集中し始めました。

 

「……大丈夫よ、カイネス。……わたしのこの命にかえて……今度は私があなたを守るから。」

 

「……え…いま…何て……??」

「カイネス……聞いて。残念だけど、この数の魔物たち相手にこのまま逃げるのは無理だわ。このままだと2人とも死んでしまう。でも1つだけ逃げられる方法があるの。この私の命を全て魔力にかえて、あなたとこのあたり一帯を霧で覆うわ。」

「なんだって!!?」

「私はこの命を霧に変えてあなたの衣になるわ。そうすれば、あなただけなら逃げられる。」

「何を言っているんだ、リセリア!」

「カイネス……最後にあなたにもう一度会えて嬉しかったわ。あなたはあの日のまま、やっぱり優しくて真っ直ぐで誠実な人だった。本当はもっと一緒にいたかったけど、残念……。でもこれもきっと運命なのよね。」

「リセリア!!!」

「カイネス……私の愛おしい人。お願い、どうか生きて!神様……お願い…私の命にかえてどうかこの人を守ってください……!」

「待て、リセリア!!!!」

「さようなら……ありがとう、カイネス……」

 

そう言い終わると、リセリアの身体は眩しい光に包まれ、はじけ、散った星屑が形を変えて、辺り一面に深い霧が立ち込めました。

 

濃い霧によりカイネスを見失った魔物は右往左往しています。

 

一瞬で消えてしまったリセリアの姿を泣きながら探すカイネスでしたが、どこにも見当たりません。

 

その姿を見つけられず、本当に霧になってしまったと悟ったカイネスは輝く光の方へ走り出しました。

どのくらい進んだのかも分からないほどでしたが、かなりの時間をかけようやく霧の外に出た頃にはあたりはすっかり暗くなっていました。息を切らしたカイネスがその顔をあげると、その先は村の目の前でした。

 

カイネスは恐る恐る村を再び訪れるとそこには空っぽになった家々と、無数の亡骸だけが残っており、乾いた風の音だけが聞こえていました。

 

変わり果てた懐かしいその村の真ん中で、カイネスは声をあげて泣き崩れました。

 

満天の星々が輝く空は泣き声に包まれ、まるで世界から切り離されたかのような独りきりの時間はこの世で最も悲しく寂しく切ないものでした。

 

 

それからひとりエルボス帝国に戻った傷だらけのカイネスは、中隊が魔物に襲われて全滅してしまったこと、自分だけが逃げ帰ってきたことを報告しました。

 

数週間、傷の治療に専念したカイネスに対し、国は軍に戻るように命令を下しました。

一度は除隊を決めた身。

はじめから戻る気はなかったカイネスでしたが、2つの話を耳にすることで、軍に戻ることを決意します。

 

1つは、セインティティア王国の近く一帯の広い範囲に突如として現れた霧が、天気に関係なくずっと、ずっと晴れずにいるということ。

そしてもう1つは、創世の神が残したとされるクリスタルを探し求めて雪山に登る任を受けた小隊があるということ。

 

この2つを耳にしたカイネスは、神が残したというクリスタルの力を使えば、もしかするとリセリアを元に戻せるかもしれないと考えたのです。

 

傷が癒えたばかりのカイネスは雪山への任務に志願しました。

 

「いいのか、カイネス?あの雪山は戻ってきた人がいないと言われるほどの過酷な場所だ。出発は明日なのだぞ?お前はまだ完治していないだろう?」

「大丈夫です!傷はもう問題ありません!どうか僕を隊に加えてください!お願いします!」

 

無理矢理小隊に加わったカイネスたちは、翌日雪山へと向かっていきました。

 

意気込んで雪山を登り始めた小隊でしたが、あまりの寒さと視界の悪さになかなか前に進めずにいました。

兵隊達が弱腰の中でも、カイネスは一人気を吐いて進んでいきます。

 

雪山の中腹に差し掛かると、小隊の仲間が1人、また1人と寒さに動けなくなり、息絶えていきました。

「雪山……まさかこれほどまでとは……」

 

しかしカイネスは自分自身が不思議とそこまでの寒さを感じていないことに気がつき、疑問に思いました。

ふと胸元に目をやると、何かが光っています。

 

「これは……ああ…リセリア……」

 

それはリセリアからもらったネックレスでした。そのネックレスに込められた魔力がカイネスを包み、寒さから守ってくれていたのです。

カイネスはそのネックレスを握りしめ涙を流しました。

「ずっと傍で守ってくれていたんだね……」

 

それから雪山を登り続け、その頂上にたどり着いた頃には、数十名の小隊はカイネスただ1人になっていました。

 

「ここが頂上か……」

 

開けた場所を歩みを進めるカイネスは恐ろしい声を耳にします。

 

「ド…ドラゴン……!!」

 

その声の先には大きなドラゴンが翼を広げ、カイネスを威嚇していました。

そして、その足元にはクリスタルが輝いています。

「あった!!クリスタルだ!!!」

 

カイネスは剣を抜き、ドラゴンに向かって走り出しました。

「僕にはそのクリスタルがどうしても必要なんだ!!!すまないが、渡してもらう!!!」

そう叫ぶとカイネスはドラゴンの体を切りつけますが、ドラゴンの皮膚は硬く全く歯がたちません。

 

「なんて硬い体だ……!」

ドラゴンはその大きな腕を振り下ろし反撃してきます。

カイネスは盾で身を守りましたが、ドラゴンの腕の力が強すぎて、その盾ごと体が弾き飛ばされてしまいました。

 

「くっ、このままではやられてしまう……しかし、僕はリセリアを助けないといけないんだ!彼女が僕を救うために命をかけてくれたように、僕も彼女のために命をかけるんだ!!!」

 

ドラゴンが再び腕を振り上げた脇腹にカイネスは剣を突き立てました。

 

「ギャァォォォ!!!」

 

ドラゴンは悲鳴をあげました。

剣が突き刺さったドラゴンの脇腹からは血が流れ出ています。

「よし、ここなら剣が通る!!」

 

そう言うと再び剣を構えましたが、カイネスの死角から飛んできたドラゴンの尻尾が身体に直撃し、再び吹き飛ばされてしまいました。

 

ドラゴンは冷気のブレスを吐き出すとカイネスの半身は凍りついてしまいました。

 

「し、しまった!!!動けない……!!」

 

そこにすぐさまドラゴンは飛びかかると、カイネスの体をその大きな足で踏みつけました。

バキバキという音とカイネスの悲鳴が雪山に響き渡ります。

体の骨を砕かれ虫の息のカイネスは必死に立ち上がろうとしますが、凍結して麻痺した身体にはもはや感覚がなく、動くことができません。

 

「リセリア……リセリア……ダメだ、こんな……ところで…死ぬわけ、には…いかない…」

 

動けないカイネスの体をドラゴンは尻尾で薙ぎ払うと、カイネスの身体は軽々と飛ばされてしまいました。

そしてドラゴンは再びカイネスに向かって冷気のブレスを吐き出すと、カイネスの全身は氷のように固まってしまい、二度と動くことはありませんでした。

 

「………リ…セ…リア……」

 

 

 

「……あれから数百年が経つというのに、あの子の霧は未だ消えることがない。それほどまでに君はあのエルボスの兵士のことを想っていたのかい?」

 

アレーシャの森の魔女はキミゴロモ地方を訪れていました。

 

「リセリアもあのエルボスの兵士ももういないと言うのに、この霧だけが残されているだなんて、そんな悲しい物語があるかい。なあ、リセリア。君はちゃんと安らかにあの世にいけているのかい?」

アレーシャの森の魔女は静かに霧を撫でました。

 

「あれから時が経って、霧衣(キリゴロモ)と呼ばれていたこの地方はどこかの詩人が作った詩をきっかけに今では君衣(キミゴロモ)と呼ばれるようになったんだ。

『私の命をかけて君の衣になろう…』

その詩人の作った詩こそが、真実の物語に最も近い。その物語を耳にする度に切なくてたまらないよ。君はまるで物語かのように、純粋にまっすぐに人を愛し、人を守り、自分の命を燃やしたんだ。悲しくてさみしいけど、私は君の友人として君を心から誇りに思うよ。」

 

アレーシャの森の魔女はわずかに声を震わせながら口にしました。そしてリセリアに語りかけるかのように言葉を続けます

 

「私はね、きっかけはどうであれ、この地域が君衣という名前で呼ばれることを気に入っているよ。その名前はリセリア、君の生き様そのものであり、君らしさを表したものだからね。」

 

「もしかすると、この霧が晴れる時は君の想いが晴れる時なのかもしれないね。それを私は見届けるよ。」

 

そう言うとアレーシャの森の魔女は静かに目を閉じて、しばらくその場に佇んだのでした。

 

霧の向こう側の空高くには満天の星々が輝いています。まるで世界から切り離されたかのようなその霧と静寂に包まれた空間は、この世で最も美しく純粋で、悲しく切なく、そして少しだけあたたかく優しいものでした。

 

 

Real Fantasy物語 勇者ジェミニの伝説 番外編 君衣の伝説 完

 

 

 

勇者ジェミニの世界を形作る他の物語も是非覗いてみましょう。

Real Fantasy物語 勇者ジェミニの伝説 外伝 ~もう1つの英雄伝説~

 

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