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Real Fantasy物語 ~勇者ジェミニの伝説 クリスタル探索冒険記~ -バルドティア王国篇- NEW!

 2025-09-06

元になるお話はこちらから「勇者ジェミニの伝説

前回のお話はこちらから「勇者ジェミニの伝説 クリスタル探索冒険記 -運命の雪山編ー

 

 

 

ドラゴンとの死闘の末ついにクリスタルを手に入れた2人は、雪山を無事に下山しました。

 

「お願いがある!!」

「頼みがある!!」

 

2人は同時に切り出しました。

2人が顔を見合わせて驚いた後、光のジェミニは言いました。

「なんだい、頼みだなんて珍しい。先に聞くよ。」

 

「俺は精霊の祠に戻る前に、セインティティアに行きたいんだ」

「あの世界一の魔法の国かい!?いいけど、どうしてだい?」

「いや……魔王との決戦の前に、魔法の力をもっと高めておきたいんだ。セインティティアにいけばそれができるはずだ。」

「そういうことか、うんわかった、そうしよう。僕も似たような感じだけど、、、僕はバルドティア王国に精霊の祠に行く前に戻りたいんだ。」

「そうか、お前が育ったテラス村はバルドティア王国領だったな。」

「あの国はエルボスにも劣らない強固な騎士大国だ。僕はそこの国の騎士と一緒に稽古をしていたからね。剣の技術を確認しておきたい。あと、ドラゴンとの戦いでもう剣がボロボロなんだ。新しく買い換えておきたい。」

 

それから2人は、まずはバルドティア王国を訪れることにしました。

 

「テラスの村には寄らなくていいのか?」

「うん、今回はやめておくよ。村に帰っちゃったら、また村を出るのが名残惜しくなっちゃうからね。」

「そうか。じゃあ、このままバルドティアに向かおう。」

 

バルドティアの国に到着すると先に城下町で買い物をすることにしました。

「バルドティアは光の国と呼ばれているだけあって、それにふさわしい武器や防具だけじゃなく、魔力を秘めたアイテムもたくさん売ってるんだ。」

「俺は初めてきたが、確かにたくさん店があるし活気に溢れているな。」

「魔道士の君にはやっぱりおすすめはヒカリノ魔法具店かな。君の闇魔法を補完してくれる光魔法の力を秘めた道具がたくさんあるよ。エルボスでたくさん金貨もらっちゃったから、好きなだけ買えるね。」

 

魔法具店での買い物を終えた2人は次の店に向かいます。

 

「やあ、ノハナさん。」

「ジェミニ君!来ていたの。久しぶりね!旅は順調?」

「うん、まあね。大変だけど、魔王討伐に一歩ずつ近づいてるよ。」

「そう、それは良かったわ。最近は強い魔物が湧いてるって話だから。きみも気を付けるのよ。それにしても……隣のその子、きみにそっくりね。きみ、双子だったかしら?」

「ああ、ええっと……そういうわけじゃないんだけど、彼はちょっといろいろと不思議な縁でね。彼もジェミニっていう名前なんだ。」

「へぇ、そんなこともあるのね。まあ、きみは昔から不思議な人だったからね、そういわれてもあまり驚かないわ。ふふふ。」

 

光のジェミニはいくつか会話を交わし、買い物を終えました。

「あの店主、強い魔物が湧いてるって言ってたな。」

「そうだね、僕も気になった。お城に行った時に聞いてみよう。」

 

「あれ、ジェミニ?」

「るるむ!?」

 

「え、どうしてバルドティアにいるの?まさか、あんた魔王を倒すなんて言って出て行っておきながら……怖くてずっとバルドティアに隠れてたんじゃないでしょうね??」

少しバカにしたような顔で、少女が言います。

 

「そ、そんなわけないだろ!!何言ってるのさ!あ、この子はるるむ。テラスの村の友達だよ。るるむこそ何してるのさ。」

 

「あたしはちょっと用があって来てるだけ!そういえば、あんたのお師匠さんも来てるよ。国王に呼ばれたらしくて、お城に行ったら会えるんじゃないかな。」

「え!!師匠が!!懐かしいなあ……成長した僕の姿を見てもらおう。あと、ジェミニのことも紹介しなくちゃ!」

「わ!この人ジェミニにすっごく似てる!でもあんたよりも大人っぽい顔つきね。きっとたくさん苦労してきたんでしょう。」

「え、それじゃあまるで僕が平々凡々と呑気に生きてきたみたいじゃないか。」

「あはははは!実際そうでしょう。魔物の脅威は確かにあるけど、バルドティアの精鋭部隊が見回りに来てくれてるし。たぶんだけど、他国よりはテラスの村は平和に暮らせてるんじゃないかな。」

「バルドティアは民からの信頼が厚いんだな。」

「王様は正義感の強い人だからね!良くも悪くも正義の人っていうか、悪は徹底的に滅ぼそうとするし、民は何が何でも守る!みたいな人。まあ、それも行き過ぎると息苦しいけどね。」

「ジェミニ、城に行こう!僕の師匠も紹介するよ。国王にも挨拶していこう。じゃあ、るるむ、またね!気をつけて帰ってね。」

 

買い物を終えた2人は城に向かいました。

城の城門をくぐり、広場に向かうと多くの騎士たちが訓練をしています。

 

「あ!師匠!!」

「ジェミニ!どうした、お前またビビッて帰ってきたのか?」

「やめてくださいよ、師匠まで!!僕けっこう活躍してるんですよ!!」

いたずらっぽい笑顔で言葉を発する、その師匠と呼ばれる人物に対して、光のジェミニは少しムッとして言葉を返します。

 

「はっはっはっ。ああ、噂には聞いてるよ。エルボスを救った英雄だって。この国でもテラス村でもお前の話題で持ちきりだよ。そして……そちらさんは、噂のもう一人の英雄の魔道士さんかな。ん……?」

「どうしたんですか、師匠?」

 

光のジェミニの師匠は、まじまじと闇のジェミニの顔や全身を眺めました。

 

「いや……。驚いた、そっくりじゃないか。」

「彼もジェミニっていうんですよ。」

 

「そうか、君もジェミニ……なるほどな。俺はこいつの師匠のカノだ。バルドティアの騎士たちの非常勤の教育係でもある。よろしくな!それにしても、名前も同じ、姿も瓜二つか……不思議なこともあるもんだな。」

 

2人のジェミニは、それまでのことをすべてカノに話しました。

エルボスを救った話、精霊の祠の話、クリスタルを手に入れた話、魂を1つにすれば魔王を倒せる力を得られる話。

 

「やはり、お前は大変な運命を背負って生まれてきたみたいだな……。」

 

カノは何やら神妙な面持ちでしばらく何かを考え込んでいました。

 

「おい、ジェミニ。かかってこい。」

「えっ?」

「稽古をつけてやる。お前がどこまで成長したのか、この師匠に見せてくれ!」

「は、はい!!ご指導お願いします!」

 

そうすると、光のジェミニとカノは剣を交わし始めました。

 

数分間の攻防が続いたのちカノは稽古を終え、話し始めました。

 

「確かに……立派になったな、ジェミニ。剣の鋭さが見違えた。この威力や踏み込みは覚悟がないと出せない。心が強くなった証だ。」

 

「あ、ありがとうございます!!」

 

「だが!今のままじゃまだ魔王は倒せないだろう。お前たちの魂が1つになるってのがどういうことかわからないが、さらに強くなるためには光と闇をもっとバランスよく使えるようにならなきゃだめだ。」

 

「ど、どういうことですか……?」

 

「魔道士のジェミニ君。君は闇の魔法が得意なんだろ?光の魔法は使えるかい?」

 

「!?なんでわかるんだ……?いや、光の魔法は使ったことがない。」

 

「そうか。じゃあ君も同じだな。2人ともよく聞け。魔物とは負の力を持った存在だ。強い負の力は、光と闇の力をどちらも使えないと倒せないんだ。ただこれを使いこなせる人間はほとんどいない。それを習得するんだ。」

 

「光と闇、どちらも……。」

 

「いいか、光と闇は本来対になるものだ。よく勘違いされるんだが、光と闇の関係は善悪とは違う。どちらも表裏一体なのだ。闇は悪ではない。同様に光は正義ではない。光と闇は一対になる存在、その対極にあるのが負だ。

 

光とは外に向く力。

闇とは内に向く力。

 

光とは、人が困難に打ち勝ち、前に進もうとする理性的な力。

闇とは、人が根源的にもつ欲望や怒り迷いなどの感情的な力。

 

光は闇を知らないと人を傷つける。

闇は光がないと自分を傷つける。」

 

「む、難しいです、師匠……。」

 

顔をしかめる光のジェミニをよそに、カノは話を続けます。

 

「人は生きていれば欲望が生まれ、怒りや迷いを感じるのは自然なことだ。これを闇という。

それを否定してはいけない。これらは人間が持つ自然な感情だ。そしてそれだけでは負にはならない。その感情を認め受け入れてあげるんだ。そうすればそれは前に進む原動力となる。闇が光を帯びるんだ。

例えば、勝負に負けて悔しい、悲しい、だからもっと頑張ろう、といった感覚がそれだ。

そして前に進んでいるとうまくいくことばかりじゃない。必ず壁にぶつかり、悩み苦しむ。怒りや迷いも生じる。それは前に進んでいるが故であり、それを感じるからこそ、人の痛みも理解できる優しさを持てるんだ。光は闇を帯びており、闇の大切さを教えてくれるんだ。」

 

2人のジェミニは真剣な面持ちでカノの言葉を必死に理解しようとします。

 

「闇を知らない光は凶器だ。正論で相手を叩き潰す。人を傷つけ、人から負を生み出す。そして光を知らない闇も同じく凶器だ。自分を傷つけ自分の中から負を生み出す。

負とは、自分や他人を呪いたい、傷つけたい、消したい、などの憎悪の感情のことだ。

例えば、自分が負けて悔しすぎて自分の無能さから自身を呪ってしまうとか、自分が前に進むためにあいつが邪魔だからあいつを始末しようとか、そういう刃を持つ念がそれだ。

光と闇をバランスよく扱えるようになれ。お前はもっと闇に意識を向けろ。魔道士のジェミニは光に意識を向けろ。そうすれば負を消し去ることができる。」

 

「んー……ちょっとよくわからないや……。つまり……人に優しく、自分に優しくってことですよね……?」

「光を帯びた闇、か……。」

 

二人のジェミニは黙り込み、必死にカノからの話を頭の中で整理しました。

 

「おい、お前たちはここにいつまでいるんだ?」

「あ、いや、特に決めてないですけど……。」

 

「よし、だったらゴストナ渓谷の遠征にはお前たちが行け!」

「え?」

 

カノから現在ゴストナ渓谷に強力な魔物が湧いていることを聞かされました。

そしてそこにバルドティアの精鋭部隊が討伐の遠征に行くことになっており、カノが同行する予定でしたが、カノのかわりにジェミニたちに行かせるとのことでした。

 

「国王には俺から言っておく。出発は明日だ、準備しておけよ。」

 

突然バルドティアの騎士たちと遠征にいくことになったジェミニたち。

翌朝、部隊はゴストナ渓谷に向けて出発しました。

 

「いやー、あの噂のジェミニさんたちとご一緒できて光栄っすよ。おふたりがいれば、今回の遠征もきっと楽勝っすね!俺はピクシスです!よろしくお願いしますっ!」

「こちらこそ。僕はジェミニ。こっちのガラの悪そうな魔道士もジェミニだよ。でも根は良いやつだから、安心して。ピクシスさん、一緒に頑張ろうね。」

「ふんっ。」

明るく友好的な光のジェミニやピクシスとは対照的に、闇のジェミニはぶっきらぼうに返します。

 

そこに1人の騎士が近づいてきました。

「コラコラ、気を抜くんじゃないぞ、ピクシス。ジェミニさんたちはあくまでも助っ人だ。任務を完遂するのは我々なんだぞ、まったく。……部下が失礼をしました。私は今回の遠征隊の副長を務めます、アークと申します。カノ様や国王からもお話は伺っております。できるだけお二人の手を煩わせないように、我々が先陣をきって討伐にあたります。もしもの際はご援護をよろしくお願いいたします。」

「アークさん、ずいぶん丁寧な方だね。よろしくね。」

「遠征隊隊長のサチミ・ルークは、最前線で指揮をとっておりますので、あなた方のサポートはこのアークが担当させていただきます。」

 

穏やかで紳士的なアーク副長に闇のジェミニが話しかけます。

「おい、副長さん、ゴストナにはどれくらいで到着することを見込んでいるんだ?」

「順調にいけば1週間ほどで到着するかと。」

「ゴストナ渓谷でいったい何が起きてるんだろうね。」

「はい。入った情報によると、ゴストナ渓谷から湧き出ている魔物たちは、動物や人間の形を模しているわけではなく、どちらかというと実体があやふやな、霧のような魔物だということです。普通の剣では実体をとらえられず、魔法やその力を帯びた剣技でないと倒せないとのことです。」

「なるほど、それでバルドティアが……。」

 

 

遠征メンバーと会話をしながら歩みを進めていく一行は、いよいよゴストナ渓谷に到着しました。

ゴストナ渓谷は深い岩渓谷で、いまはもう水は枯れて流れておらず、ただただ深くまで谷が続いています。

 

「ここからの下りの道は、渓谷の最深部まで続いています。1日ほど歩けば最深部までたどり着けるかと思います。ただ、魔物と接触の可能性が十分にありますから、気を付けて進みましょう。」

「い、いよいよだね。剣も新調したし、準備はばっちりだよ!でもちょっと待って。ストレッチしておくよ。あ、あと、お水も飲んでおかなきゃ。」

「お前はまだビビってるのか……あのドラゴンとの戦闘に比べたら大したことないだろ。

しかし、ここはなんて不快な場所なんだ。この先からかなりいやな空気が流れてくるぜ……。」

 

「魔物だ!!!」

 

先頭を進むメンバーの声の方向に、黒い霧の塊のような魔物が3つ現れました。霧の塊の中からは怪しく目が光っています。

バルドティアの騎士たちは光り輝く剣を振り下ろし、あっという間に魔物を退治してしまいました。

 

「わあ、さすがバルドティアの精鋭騎士たちだね。助かったよ!」

「今のはサチミ・ルーク遠征隊長ですね。隊長は国王からの信頼もあつく、我が国でも屈指の剣士です。そう簡単にはお二人の出番は回ってこないかと思います。」

 

バルドティアの騎士たちの活躍もあり、魔物を倒しながら遠征部隊はどんどん奥へと歩みを進めていきます。

そして最深部に差し掛かるころ……

「ん……?どうされましたか?光のジェミニさん。」

「うぅ……なんか……変な、不気味な声が聞こえる。あ、頭が……痛い……。」

「ああ、なんだこれは、背筋が、凍るような寒気と、気持ちわりぃ声が、響いてるな。」

「え、そうですか。私には何も……。おい、ピクシスお前は何か感じるか?」

「いえ、何も感じません、アーク副長!」

 

「この先、気を付けたほうがいい。異常な気配を感じる!」

 

そして一行は最深部付近に到着しました。

 

「な、なんだこれは!?」

 

そこには宙に浮かぶ大きなどす黒いヘドロのようなものから、泥の滴が落ちるかのように黒い魔物が無数に生まれ落ちていました。

 

「な、なんだこれは……。」

 

遠征隊は、あまりに不気味な光景にただ目を見開いて立ち尽くすほかありません。

「でやっ!!!」

沈黙を破るように、サチミ・ルークの光の剣が、その大きな黒いヘドロを捉えましたが、切ることはできません。どうやら光の力も効いていないようです。

 

生まれ落ちた無数の魔物たちは、こちらに向かって次々と襲いかかってきました。

 

「全員まずはこの魔物たちを、倒すんだ!でかいこのヘドロは、後回しだ!」

 

サチミ・ルークがそう叫ぶと、騎士たちは全員戦いを始めました。

ジェミニたちもすぐに戦闘に加わります。

 

光のジェミニの以前よりも威力を増した光の剣は、凄まじい稲光と轟音を響かせ、魔物を切り裂いていきます。

闇のジェミニの魔法も次々と魔物に火を放ち、燃やし尽くしてしまいます。

 

「す、すごい!これがエルボス帝国を救ったという英雄の力か……!」

「英雄に遅れをとるな!魔物を倒せ!」

 

騎士たちは一心不乱に魔物に攻撃をしかけます。

そしてしばらくたったころ、ふと気がつきました。

 

「はぁはぁ……おかしいな、魔物の数が、減らない。」

「アーク、お前も気づいたか。3分の1くらいから、まったく減っていない。」

「はぁ、はぁ、はぁ……は、はい、隊長。確かに倒しているのに、まったく減っていません。しかも最初よりも強くなっている気がします。」

 

2人のジェミニもその異変に気づきました。

「おかしいよ、剣で切り裂いて、消えているのに。数が全然減っていないなんて……これは何かの幻かい。」

「くそっ、これじゃあ切りがないな。」

 

 

戦闘が長引き、騎士たちにも疲労が見られます。

攻勢に出ていた騎士たちでしたが、一向に減らない魔物たちに少しずつ劣勢に追い込まれていきました。

「ケガ人は後方へ下がれ!救護部隊は傷の回復を急いでくれ!はやく体制を立て直すんだ!」

 

 

「何が起こっている……冷静に……冷静に観察しろ……。」

 

状況をよく見た2人のジェミニはあることに気づきます。

「消えた瞬間に生まれている……。」

 

なんと魔物は、光の剣や魔法での攻撃によって消え去ったタイミングで、またヘドロの付近から生まれ出ていました。

 

「これじゃあ倒せないじゃないか!?しかも強い光の力で切り裂かれるほど、強い魔物が生まれている!」

 

減らないだけでなく少しずつ強くなっている魔物たちに遠征部隊は追い込まれていきました。

 

「あああ!!ピクシスがやられた!!急いで手当を! おい、しっかりしろ!」

 

「まずい……隊長ついに重傷者が出ました。このままだと死者が出るどころか、下手をすれば全滅です!」

「くっ、一度退くか……。」

 

「くっそ……状況もよくわからねえし、相変わらず頭の中に不快な声が響きやがるし……なんだってんだ……。」

「僕もだよ……いったいどうすれば……。

 

焦る光のジェミニはカノの言葉を思い出しました。

 

 

(そうか。じゃあ君も同じだな。2人ともよく聞け。魔物とは負の力を持った存在だ。強い負の力は、光と闇の力をどちらも使えないと倒せないのだ。ただこれを使いこなせる人間はほとんどいない。それを習得するんだ。)

 

「光と闇、どちらも……。」

 

(光と闇をバランスよく扱えるようになれ。お前はもっと闇に意識を向けろ。魔道士のジェミニは光に意識を向けろ。)

 

 

「……僕は闇に意識を向けて、君は光に意識を向ける……。」

「光は外に向く力、前に進む理性的な力。闇は内に向く力、感情的な力。そのどっちもあわせもつ、か……。」

 

「この頭に響くこの声が負だというのなら、この負の声にもっと耳を傾けてみよう。そうすればその対極の力もわかるかもしれない。」

 

2人は頭に響く声に意識を向けてみました。すると、不思議なことに脳裏に情景が浮かび上がってきます。

 

(……怖いよ……苦しいよ……)

(どうして僕がこんな目にあわなきゃいけないんだ、僕が何をしたっていうんだ……)

(仕返しをしてやりたい、絶対に許さない、苦しめてやる)

(自分はなんて価値のない人間なんだ……)

(お父さんを、お母さんを、かえして……)

(よくも俺の息子を……呪ってやる!!!)

(私なんて生まれてこなければよかったのよ……)

 

 

2人の脳裏に、様々な憎悪や絶望の声がその情景と一緒に浮かび上がりました。

目の前で両親を兵士に殺された子、誰かの利益のために無実の罪をかぶせられ一生牢屋に閉じ込められた息子、悪質な証人によってだまされ貧困に追い込まれた老人、赤子の病気を助けてもらえず見殺しにされた母親……たくさんの悲劇とそれを恨む声が脳に浮かび上がってきました。

 

「ああああ!!!!」

光のジェミニはあまりの苦しい負の感情の衝撃に膝をついて泣き出しました。

 

「こ、これは……実際に起きたことなのか……?確か、魔物は人間の負の感情から生まれてるって聞いたことがある。

ぼ、僕は……世界でこんなショックなことが起こっているなんて、知らなかった。魔物さえいなくなれば、平和になるものだと思ってた……。でも、そんなに簡単なことじゃないんだね。世界のいろんな場所には、魔物とは無関係に、こんなにも苦しんでいる人たちがいる、こんなにも悲惨なことが起きているんだ……。僕は……何も知らなかった。何も知らずに生きてきた……馬鹿だ……僕は馬鹿だ!!!!」

 

崩れ落ちる光のジェミニの状況とは無関係に、魔物は襲い掛かってきます。

 

「おい、ジェミニ!!!!」

闇のジェミニが慌てて声をかけます。

 

しかし、光のジェミニは落ち着いた様子で、剣で魔物を切り裂きました。

 

「ごめんね、ごめんね……。僕は何も知らずに平和な環境で生きてきた。もっと世界のみんなのことを知っていれば、みんなの気持ちを知っていれば……その感情に気づいていれば。もっと力になれたかもしれないよね。君たちが、誰かを、自分自身をも責めずに済んだかもしれない。ごめんね。その気持ちを受け止め、君たちがそんな思いをしないような世界を、僕が作ってみせるよ。君たちが次にもし生まれ変わってくるときは、1人でも多くの人が笑顔で暮らせる、そんな世界になっているように、実現してみせるから!」

 

負の感情に涙を流しながら剣を振るうジェミニの光に時折闇が混ざるようになりました。

闇をまとった光の剣は魔物を消し去っていきます。

 

「僕は世界に実在する悲しみをあまり知らなかった。この剣を振るう意味。世界の人の笑顔を守りたいと思って魔王を倒す旅に出たけど、人間の本当の苦しみ、悲しみ、憎しみ、その感情も世界の現状も、僕は何も分かっちゃいなかった。僕が守りたいのは魔物に襲われない平和や凝り固まった一方的な正義が蔓延する世界じゃない。人が、心から笑える、身も心も、豊かに生きていける世界だ!それが、僕が剣を振るう、本当の意味だ!!」

 

 

「苦しかっただろう。誰かを呪いたかっただろう。絶望を刃にかえて、何かを傷つけなければ心を保てなかったよな。俺だって同じだった。育ての親を殺されて、誰かを恨まないとやっていられなかったんだ。それでも、それは何も解決にはならないし、それを受け入れて前に進んでいかなければならない。自分を愛すべきだし、自分と同じような苦しみを他人に強いてはならないんだ!少しでもお前たちが楽になるように俺も力になってやる。」

 

同じように、闇のジェミニが放つ闇の魔法に時折光が混ざるようになり、魔物を消し去っていきました。

 

 

「魔物が……減っている……光と闇が混ざり合ったような……この力はいったい……?」

 

サチミ・ルークが呆然とする中で、二人は次々と魔物を倒していきます。

 

 

そして宙に浮かぶ大きなどす黒いヘドロにも二人のジェミニは攻撃をしかけます。

 

「効いている!剣で切った部分が消えているし、魔法が当たった部分も薄くなっている!」

 

2人のジェミニの絶え間ない猛攻が魔物に浴びせられます。

 

「もう少しだ!削り切るぞ!!」

「うん!よぉし、さあくらえ!!これが僕たちの、未来を切り開く、希望の、力だーーー!!!!!!」

 

闇のジェミニの魔法と、光のジェミニの剣がどす黒いヘドロを同時にとらえ、ついに消滅させました。

 

「はぁ、はぁ、よ、よし!」

「やったな!」

 

「よっしゃあああーー!!!!」

 

ジェミニや騎士たちの光る剣で、ぼんやりと明かりが広がる空間に、歓喜の声が響き渡りました。

 

すべての魔物を倒しきった騎士たちはみな、その場に倒れこみました。

 

「俺たちもうおわりかと思ったぜ。」

「ああ、全然魔物がへらねえんだもん、こんなことはじめてだったな。」

 

 

「ありがとう、ジェミニさんたち。お二人がいなかったら魔物には勝てなかっただろう。」

サチミ・ルークが疲れた顔に笑みを浮かべ2人のジェミニに声をかけました。

 

「こちらこそだよ、隊長さん。君の剣もすごかったよ。バルドティアに戻ったらお手合わせお願いしたいくらいだよ。」

「おかげで新しい力の使い方も分かったし、俺たちにとってもいい収穫だった。」

 

疲弊しきった一行はその場で休息をとり、ほどなくして帰路に就きました。

 

バルドティアからゴストナ渓谷にかかった時間よりもずいぶん長い時間がかかって、ようやく遠征隊一行は全員無事に1人も欠けることなくバルドティアにたどり着きました。

国王に報告をし労いをうけたのち、遠征隊の面々は各々の通常の任務に戻っていきました。

 

「よくやったな、二人とも。」

 

「師匠!」

「今回の件はあんたの狙いだったのか?あんな魔物がいることを知ってたのか?」

 

「はっはっはっ、バレたか!俺はゴストナ渓谷にも行ったことがあるし、光の力だけじゃ勝てない魔物とも戦ったことがあるからな。」

 

「もう、師匠!先に言ってくれればよかったじゃないですか!?あんなことになるなんて思いもしませんでしたよ!!」

「なんだ、ちゃんと教えたじゃないか。理解できなかったのはお前だろ?ただ、理屈で分かってもしかたないんだ。実践の中で実際につかんでこそ自分のものにできる。」

 

「それはそうですが……。」

 

「それにジェミニ、お前ならきっとできると思っていたぞ。お前は純粋で正しい心を持っているのがいいところだ。しかし、何も知らなくて純粋であることと、世の中の汚さ、不条理さ、虚しさを知ってもなお純粋であることは違う。世界の実情を知り、その上での純粋さがあってはじめて光と闇を両方扱えるんだ。」

「はい!ありがとうございます!」

「魔道士のジェミニも同じだ。壮絶な体験、苦しみの末に前を向いて進む心、それでも誰かを救おうという心をもって初めて光と闇を扱うことができる。」

 

「ああ。あんたに感謝する。俺はこれでさらに強くなれた。」

 

「二人とも、ひとまず今日はゆっくり休め。今晩はみんなで一緒に食事でもしよう。」

 

数日バルドティアに滞在し傷と疲れを癒した2人は、再び旅に出発することにしました。

「じゃあ、気を付けていくんだぞジェミニ。次はセインティティアに行くと言ってたな。あそこは最近いろいろと取り締まりが厳しくなったと聞く。何やら国を運営する幹部が大幅に入れ替わったらしい。何が起こっているのかわからんが、まあ、お前たちなら大丈夫だろう。」

「分かりました。気にかけておきます。それでは師匠、行ってきます!テラス村のみんなにもよろしく伝えといてください!るるむも、またね!」

 

「行ってらっしゃい、ジェミニ!魔道士のジェミニさんに迷惑かけちゃだめよ!」

 

「……運命とは、本当に不思議なものだなあ。」

旅立つ2人の背中を見ながらカノは目を細めてポツリとつぶやきました。

 

こうして2人はバルドティアに別れを告げ、世界最大の魔法国家セインティティア共和国に向けて旅立ちました。

 

 

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